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税務の勘所Vital Point of Tax

評価通達6項めぐる新たな判決 東京地裁 税務署の評価は平等原則違反

2025/05/21

 相続直前に大型出資を募って株式発行を実行し資産構成を変えた会社の株式の相続税評価を巡り、国による財産評価基本通達6項(以下、評価通達6項)の適用可否が争われていた裁判で、東京地裁は令和7年1月17日、評価通達6項の適用を認めないとする判決を下した。これに対して国側は1月30日に控訴している。

今回の裁判で争点になったのは、相続人らが相続した取引相場のない株式につき、財産評価基本通達に定める類似業種比準価額と純資産価額の併用方式により算定した評価額で申告等したところ、税務当局が評価通達6項を適用して純資産価額方式による評価額で更正処分したことが、平等原則の違反となるかどうか。

 判決によると、この事案で問題になったのは、平成25年8月9日の臨時株主総会で決められた新株発行と同年9月30日に行われた配当、それに新株発行に対する被相続人による出資だ。具体的には次のとおり。

①被相続人が創業した上場会社株(当該上場会社の会長は被相続人の子B)を有する非公開同族会社A社に対して被相続人が行った約36億円に上る出資
②その出資に対する新株発行90万5440株(1株当たり3976円)
③配当(普通株1株40円、総額1836万円)

 これに先立ち、被相続人は平成25年4月から5月にかけて、自身が所有する上場株式等を売却し、源泉税控除後の約37億円を手にしており、上記①の出資金額を払い込んでいる。
 なお、このスキームは、被相続人の子Bが相続発生前に証券会社に相談して企図されたものだ。この出資の結果、A社は24年9月期の投資有価証券は13億円余りで、同社の貸借対照表の資産に占める割合は89.2%だったが、上記①の出資後の25年9月期の資産約50億円に対する投資有価証券の割合は26.1%となった。
 平成25年10月に相続が発生。自筆証書遺言と遺産分割協議により、被相続人の養子となった孫2人が本件株式25万4464株を相続、ほかの4人の相続人がそれぞれ12万7232株を相続した。
 相続人らは、発行会社のA社が評価通達178に定める評価上の区分が「小会社」に当たるとして、同通達179の定めに基づき、類似業種比準価額と純資産価額の併用方式を選択し、本件株式の価額を1株当たり1853円と評価した。
 これに対して税務当局は平成30年9月、評価通達6項を適用して再評価を行い、1株3443円として追徴した。税務当局では、新株発行等によりA社が以下の評価通達189なお書により、本来、株式保有特定会社と判定されることを前提に、問題の株式については、同通達189-3により純資産価額方式での評価とした。裁判での主張によると、それは新株発行・配当をしなければ株式保有特定会社について定め「S1+S2」方式により評価することになるなど、上記併用方式の評価額より高くなるため、新株発行・配当等により相続税の負担が著しく軽減されると見たからだ。
 評価通達189のなお書とは、「特定の評価会社の株式」の評価について、評価会社が株式等保有特定会社等に該当するかどうかを判定する場合において、課税時期(ここでは相続開始)前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が株式等保有特定会社等と判定されることを免れるためと認められるときは、その変動はなかったものとして判定を行うものとする定めだ。株式等保有特定会社とは、評価会社の有する各資産を評価通達により評価した価額の合計額のうちに占める株式、出資・新株予約権付社債の価額の合計額の割合が50%以上である会社のこと。上記の資産構成変動により株式等保有特定会社との判定を逃れることを「株特外し」という。

裁判所の判断

 東京地裁は、最高裁令和4年4月19日判決(路線価に基づく相続財産の評価は不適切として、税務署が主張する不動産鑑定の評価額を認めた判決)を前提として、「問題の株式の価額について、評価通達の定めにより評価した場合の評価方法は、A社が小会社(評価通達178)に該当するため、更正の請求において併用方式を選択したことから併用方式により評価することとなる(1株当たり1858円)」と指摘。
 その上で、東京地裁は、税務当局が株式等保有特定会社なら併用方式の株式評価額より高くなるとする「評価通達189柱書きなお書きが適用される場合に係る主張をするが、同なお書きの要件該当性につき、具体的な主張立証をしないから、同なお書きが適用される場合に係る被告の主張は採用することができない」とした。これは税務当局が新株発行・配当等に合理的理由がないことなどの立証が不十分との指摘ともうかがわれる。
 これを踏まえ東京地裁は、問題の株式の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がない限り、株式の再評価・追徴は「平等原則に違反する」として次の検討に移った。
 それは、「原告らは、新株発行等が原告らの相続税の負担を減じさせるものであることを知り、かつこれを期待していたから、評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとしたとしても、上記の平等原則に違反しない」かどうかという点だ。
 東京地裁は、問題の株式の価額を評価通達の併用方式により評価することを前提とすると、課税価格の合計額は21億2513万4000円、相続税の総額は8億8156万6500円となり、本件株式発行等をしなかった場合、課税価格の合計額は38億3398万8000円であり、相続税の総額は17億3599万3500円となるとし、新株発行等をしたことにより約49%減少すると指摘。
 しかし、仮に原告らが純資産価額方式を選択していれば、課税価格の合計額、相続税の総額、納付すべき相続税額は本件各更正処分におけるそれらと同額となり、上記本件新株発行等をしなかった場合からの課税価格の合計額、相続税の総額の減少の程度は、それぞれ約2.5%、約2.8%にとどまるとも指摘した。
 これを受けて東京地裁は、「この減少は、原告らが本件新株発行等をしたことにより直ちに生ずるものではなく、評価通達179⑶が小会社の株式の価額の評価方法について、納税義務者による選択を認めていることにも起因するもの」と認定。こうしたことから「仮に原告らが新株発行等をした時点で併用方式を選択することを予定していたとしても、そのことを上記の事情の有無の判断に当たり、重視することは相当でない」とした。
 そして、「減少は評価通達が小会社の株式の価額について、納税義務者による純資産価額方式と併用方式の選択を認めていることにもよるもので、必ずしも本件新株発行等のみによるものではない。そうすると、本件新株発行等により原告らの相続税の負担が著しく軽減されるものであると評価することは困難」として、税務署の評価通達6項を適用した評価は「租税法の一般原則である平等原則に違反するといわざるを得ない」と判断している。

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